て。」
「まあ、よくねえ。」
と、此方《こなた》も息を吻《ほっ》としながら、
「これではどうせ――三浜《みはま》さん、来《い》らっしゃらないと思ったもんですから、参詣《おまいり》を先に済ませて、失礼でしたわ。」
「いいえ、いいえ。」
「何しろこの雪でしょう、それに私などと違って、あなたはお勤めがおありになりますから。」
「ところが、ですの。」
とまた一息して、
「私の方こそ、あなたと違って、歩行《ある》くのも、動くのも、雨風だって、毎日体操同然なんでございますものね。」
と云った。「教え子」と題した、境遇自叙の一篇が、もう世に出ていた。これも上杉先生の門下で。――思案入道殿の館《やかた》に近い処、富坂《とみざか》辺に家居《いえい》した、礫川《れきせん》小学校の訓導で、三浜|渚《なぎさ》女史である。年紀《とし》はお京より三つ四つ姉さんだし、勤務が勤務だし、世馴《よな》れて身の動作《こなし》も柔かく、内輪の裡《うち》にもおのずから世の中つい通り――ここは大衆としようか――大衆向の艶《つや》を含んで、胸も腰もふっくらしている。
「わけなし、疾《はや》くに支度をして、この日曜だというのに
前へ
次へ
全151ページ中58ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング