き》、鍋《なべ》で御酒《ごしゅ》――帳場ばかりか、立込むと出番をする。緋鹿子《ひがのこ》の襷掛《たすきが》けで、二の腕まで露呈《あらわ》に白い、いささかも黒人《くろうと》らしくなかったと聞いている。
また……ああ惜しいかな、前記の閨秀《けいしゅう》小説が出て世評一代を風靡《ふうび》した、その年の末。秋あわれに、残ンの葉の、胸の病《やまい》の紅《あか》い小枝に縋《すが》ったのが、凧《こがらし》に儚《はかな》く散った、一葉女史は、いつも小机に衣紋《えもん》正しく筆を取り、端然として文章を綴ったように、誰も知りまた想うのである。が、どういたして……
――やがてこのあとへ顔を出す――辻町糸七が、その想う盾の裏を見せられて面食《めんくら》った。糸七は、一雑誌の編輯にゆかりがあって、その用で、本郷丸山町、その路次が、(あしき隣もよしや世の中)と昂然《こうぜん》として女史が住んだ、あしき隣の岡場所で。……
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――おい、木村さん、信さん寄っておいでよ、お寄りといったら寄っても宜《い》いではないか、また素通りで二葉屋へ行く気だろう――
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にはじまって、―
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