《ろうそく》が灯を点じた。二つ三つまた五つ、灯《ほ》さきは白く立って、却って檐前《のきさき》を舞う雪の二片《ふたひら》三片《みひら》が、薄紅《うすくれない》の蝶に飜《ひるがえ》って、ほんのりと、娘の瞼《まぶた》を暖めるように見える。
「お蝋をあげましてござります。」
「は。」
僧は中腰に会釈して、
「早朝より、ようお詣り……」
「はい。」
「寒じが強うござります、ちとおあがりになって、御休息遊ばせ。」
この僧が碧牡丹《へきぼたん》の扉の蔭へかくれた時、朝詣《あさもうで》の娘は、我がために燈明の新しい光を見守った。
われら、作者なかまの申合わせで、ここは……を入れる処であるが、これが、紅《べに》で印刷が出来ると面白い。もの言わず念願する、娘の唇の微《かすか》に動くように見えるから。黒|ゝゝ《ぼちぼち》では、睫毛《まつげ》の顫《ふる》える形にも見えない。見えても、ゝと短いようで悪いから、紙|費《ついえ》だけれど、「 」白にする。
十六
時に、伏拝むのに合せた袖口の、雪に未開紅の風情だったのを、ひらりと一咲き咲かせて立って、ちょっとおくれ毛を直した顔を見ると、
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