厳《いつく》しき門の礎《いしずえ》は、霊ある大魚の、左右《さう》に浪を立てて白く、御堂《みどう》を護るのを、詣《もうず》るものの、浮足に行潜《ゆきくぐ》ると、玉敷く床の奥深く、千条《ちすじ》の雪の簾《すだれ》のあなたに、丹塗《にぬり》の唐戸は、諸扉《もろとびら》両方に細めに展《ひら》け、錦《にしき》の帳《とばり》、翠藍《すいらん》の裡《うち》に、銀の皿の燈明は、天地の一白に凝って、紫の油、朱燈心、火尖《ほさき》は金色《こんじき》の光を放って、三つ二つひらひらと動く時、大池の波は、さながら白蓮華《びゃくれんげ》を競って咲いた。
――白雪の階《きざはし》の下《もと》に、ただ一人、褄を折り緊《し》め、跪《ひざまず》いて、天女を伏拝む女がある。
すぐ傍《わき》に、空しき蘆簀張《よしずばり》の掛茶屋が、埋《うも》れた谷の下伏せの孤屋《ひとつや》に似て、御手洗《みたらし》がそれに続き、並んで二体の地蔵尊の、来迎《らいごう》の石におわするが、はて、この娘《こ》はの、と雪に顔を見合わせたまう。
見れば島田|髷《まげ》の娘の、紫地の雨合羽《あまがっぱ》に、黒|天鵝絨《びろうど》の襟を深く、拝んで俯
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