、紫の顱巻《はちまき》で、一つ印籠何とかの助六の気障《きざ》さ加減は論外として、芝居の入山形|段々《だんだら》のお揃《そろい》をも批判すべき無法な権利を、保有せらるべきものであらねばならない。

 ついでにいう。ちょうどこの時代《じぶん》――この篇、連載の新聞の挿絵《さしえ》受持で一座の清方《きよかた》さんは、下町育ちの意気なお母さんの袖の裡《うち》に、博多の帯の端然《きちん》とした、襟の綺麗な、眉の明るい、秘蔵子の健ちゃんであったと思う。
 さて続いて、健ちゃんに、上野あたりの雪景色をお頼み申そう。

 清水《きよみず》の石磴《いしだん》は、三階五階、白瀬の走る、声のない滝となって、落ちたぎり流るる道に、巌角《いわかど》ほどの人影もなし。
 不忍《しのばず》へ渡す橋は、玉の欄干を築いて、全山の樹立《こだち》は真白《まっしろ》である。
 これは――翌年の二月《きさらぎ》、末の七日の朝の大雪であった。――
 昨夜《ゆうべ》、宵のしとしと雨が、初夜過ぎに一度どっと大降りになって、それが留《や》むと、陽気もぽっと、近頃での春らしかったが、夜半《よなか》に寂然《しん》と何の音もなくなると、うっ
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