雁もどき。」――
唐突《だしぬけ》に、三人のすぐ傍《そば》で……馬鹿な奴である。
またこの三人を誰だ、と思う?……しかしこれは作者の言《ことば》よりも、世上の大《おおい》なる響《ひびき》に聞くのが可《よ》かろう。――次いで、四日と経《た》たないうちに、小川写真館の貸本屋と向合《むかいあ》った店頭《みせさき》に、三人の影像が掲焉《けつえん》として、金縁の額になって顕われたのであるから。
――青雲社、三大画伯、御写真――
よって釈然とした。紋の丸は、色も青麦である。小鳥は、雲雀《ひばり》である。
幅広と胸に掛けた青白の糸は、すなわち、青天と白雲を心に帯《たい》した、意気|衝天《しょうてん》の表現なのである。当時、美術、絵画の天地に、気|昂《あが》り、意熱して、麦のごとく燃え、雲雀のごとく翔《かけ》った、青雲社の同人は他にまた幾人か、すべておなじ装《よそおい》をしたのであった。
ただしこれは如実の描写に過ぎない。ここに三画伯の扮装《いでたち》を記したのを視《み》て、衒奇《げんき》、表異、いささかたりとも軽佻《けいちょう》、諷刺《ふうし》の意を寓《ぐう》したりとせらるる読者は、あの
前へ
次へ
全151ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング