寄るよ。」はいささか珍だ。白い妾に対してだけに、河岸の張見世《はりみせ》を素見《すけん》の台辞《せりふ》だ。」
「人が聞きますよ、ほほほ、見っともない。」
と、横笛が咳《しわぶき》する。この時、豆府屋の唐人笠が間近くその鼻を撞《つ》かんとしたからである。
「ところで、立向って赴く会場が河岸の富士見楼で、それ、よくこの頃新聞にかくではないか、紅裙《こうくん》さ。給仕の紅裙が飯田町だろう。炭屋、薪屋《まきや》、石炭揚場の間から蹴出しを飜して顕われたんでは、黒雲の中にひらめく風情さ。羅生門に髣髴《ほうふつ》だよ。……その竹如意はどうだい。」
「如意がどうした。」
と竹如意を持直す。
「綱が切った鬼の片腕……待てよ、鬼にしては、可厭《いや》に蒼白《あおじろ》い。――そいつは何だ、講釈師がよく饒舌《しゃべ》る、天保水滸伝《てんぽうすいこでん》中、笹川方の鬼剣士、平手造酒猛虎《ひらてみきたけとら》が、小塚原《こづかっぱら》で切取って、袖口に隠して、千住《こつ》の小格子を素見《ひやか》した、内から握って引張《ひっぱ》ると、すぽんと抜ける、女郎を気絶さした腕に見える。」
「腰の髑髏が言わせますかね
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