。いうことが殺風景に過ぎますよ。」
「殿様、かつぎたまうかな。わはは。」
と揺笑《ゆすりわら》いをすると、腰の髑髏の歯も笑う。
「冷く澄んでお上品な処に、ぞっこんというんだから、切った、切ったが気になるんだ。」
「いや、縁はすぐつながるよ。会のかえりに酔払って、今夜、立処《たちどころ》に飛込むんだ。おでん、鍋焼、驕《おご》る、といって、一升買わせて、あの白い妾。」
「肝腎《かんじん》の文金が、何、それまで居るものか。」
「僕はむしろ妾に与《くみ》する。」
三崎座の幟《のぼり》がのどかに揺れて、茶屋の軒のつくり桜が野中に返咲きの霞を視《み》せた。おもては静かだが、場は大入らしい、三人は、いろいろの幟の影を、袴で波形に乗って行く。
「また何か言われそうな気がしますがね、それはそれとしてだね、娘が借りるらしかった――あの小説を見ましたかね。」
「見た、なお且つ早くから知っている。――中味は読まんが、口絵は永洗だ、艶《えん》なものだよ。」
「そうだ、いや、それだ。」
竹如意が歩行《ある》きざまの膝を打って、
「あの文金だがね、何だか見たようでいて、さっきから思出せなかったが、髑髏が言うの
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