殿様は。」
と、横笛の紋緞子が、軽くその口を圧《おさ》えて、真中《まんなか》に居て二人を制した。
「あれだからな、仕方をしたり、目くばせしたり、ひたすら、自重謹厳を強要するものだから、止《や》むことを得ず、口を箝《かん》した。」
「無理はないよ、殿様は貸本屋を素見《ひやか》したんじゃない。――見合の気だ。」
とまた髑髏を弾く。
「串戯《じょうだん》じゃありません。ほほほ。」
「ああ、心臓の波打つ呼吸《いき》だぜ、何しろ、今や、シャッターを切らむとする三人の姿勢を崩して、窓口へ飛出したんだ。写真屋も驚いたが、われわれも唖然とした。何しろ、奢《おご》るべし、今夜の会には非常なる寄附をしろ。俥《くるま》がそれなり駆抜けないで、今まで、あの店に居たのは奇縁だ。」
「しかし、我輩は与《くみ》しない。」
「何を。」
「寂しい、のみならず澄まし切ってる、冷然としたものだ。」
「お上品さ、そこが殿様の目のつけ処よ。」
十三
「……何しろ、不思議な光景だった。かくして三人が、ほとんど無言だ。……」
「ほとんど処か全然無言で。……店頭《みせさき》をすとすと離れ際に、「帰途《かえり》に
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