そうなことを言う。そのかわり、悟った道人のようなあッはッはッはッ。
「その、言種がよ、「ちとお慰みに何ぞごらん遊ばせ。」は悩ませるじゃないか。借問《しゃもん》す貸本屋に、あんな口上、というのがあるかい。」
「柄にあり、人により、類に応じて違うんだ。貸本屋だからと言って、股引《ももひき》の尻端折《しりはしょり》で、読本《よみほん》の包みを背負って、とことこと道を真直《まっす》ぐに歩行《ある》いて来て、曲尺形《かねじゃくがた》に門戸《もんかど》を入って、「あ、本屋でござい。」とばかりは限るまい。あいつ妾か。あの妾が、われわれの並んで店へ立ったのに対して、「あ、本屋とござい。」と言って見ろ、「知ってるよ。」といって喧嘩《けんか》になりか、嘘にもしろ。」とその髑髏《しゃれこうべ》を指で弾《はじ》く。
「いや、その喧嘩がしたかった。実は、取組合《とっくみあ》いたいくらいなものだった。「ちと、お慰みにごらん遊ばせ。」……おまけに、ぽッと紅《あか》くなった、怪しからん。」
「当る、当る、当るというに。如意をそう振廻わしちゃ不可《いか》んよ。」
豆府屋の親仁《おやじ》が、売声をやめて、このきらびやか
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