袴である。とはいえ、人品《ひとがら》にはよく似合った。
 この人が、塩瀬の服紗《ふくさ》に包んだ一管の横笛を袴腰に帯びていた。貸本屋の女房がのっけに、薦僧《こもそう》と間違えたのはこれらしい。……ばかりではない。
 一人、骨組の厳丈《がっちり》した、赤ら顔で、疎髯《まだらひげ》のあるのは、張肱《はりひじ》に竹の如意《にょい》を提《ひっさ》げ、一人、目の窪んだ、鼻の低い頤《あご》の尖《とが》ったのが、紐に通して、牙彫《げぼり》の白髑髏《しゃれこうべ》を胸から斜《ななめ》に取って、腰に附けた。
 その上、まだある。申合わせて三人とも、青と白と綯交《ないま》ぜの糸の、あたかも片襷《かただすき》のごときものを、紋附の胸へ顕著に帯《たい》した。
 いずれも若い、三十|許少《わずか》に前後。気を負い、色|熾《さかん》に、心を放つ、血気のその燃ゆるや、男くささは格別であろう。
 お嬢さんは、上気した。
 処へ、竹如意《ちくにょい》と、白髑髏である。
 お嬢さんはまた少し寒気がした。
 横笛だけは、お嬢さんを三人で包んで立った時、焦茶の中折帽を真俯向《うつむ》けに、爪皮《つまかわ》の掛《かか》った朴歯
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