うに見えるのが、横通りへは抜けないで、ずんずん空地の前を、このお伽堂へ押して来た。
 下駄と下駄の音も聞える。近づいたから、よく解る。三人とも揃いの黒|羽二重《はぶたえ》の羽織で、五つ紋の、その、紋の一つ一つ、円か、環の中へ、小鳥を一羽ずつ色絵に染めた誂《あつら》えで、着衣《きもの》も同じ紋である。が、地《じ》は上下《うえした》とも黒紬《くろつむぎ》で、質素と堅実を兼ねた好みに見えた。
 しかし、袴《はかま》は、精巧|平《ひら》か、博多か、りゅうとして、皆見事で、就中《なかんずく》その脊の高い、顔の長い、色は青黒いようだけれども、目鼻立の、上品向きにのっぺりと、且つしおらしいほど口の小形なのが、あまつさえ、長い指で、ちょっとその口元を圧《おさ》えているのは、特に緞子《どんす》の袴を着した。
 盛装した客である。まだお膳も並ばぬうち、譬喩《たとえ》にもしろ憚《はばか》るべきだが、密《そっ》と謂《い》おう。――繻子《しゅす》の袴の襞※[#「ころもへん+責」、第3水準1−91−87]《ひだ》とるよりも――とさえいうのである。いわんや……で、綾《あや》の見事さはなお目立つが、さながら紋緞子の野
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