すなおな、柔かな、細々した、その長うございましたこと。……お嬢様。」
「いいえ、私のは。」
ついした様で、鬢《びん》へ触った。一うち、という眉が凜《りん》として、顔の色が一層|白澄《しろず》んだ。が、怪しい黒髪に見くらべたらしい女房の素振を憎んだのでなく、妙な話が身に沁《し》みたものらしい。
女房の言《ことば》を切って、「いいえ」と云ったのは、またそんな意味ではなかったのである。
「あれ、変な人が、変な人が……」
変な人が、女房の正面《まおもて》へ、写真館の前へ出たのであった。
十一
「こむ僧でしょうか、あれ、役者が舞台の扮装《なり》のままで写真を撮って来たのでしょうか。」
と伸上るので、お嬢さんも連れられて目を遣《や》った。
この場末の、冬日の中へ、きらびやかとも言ッつべく顕《あら》われたから、怪しいまで人の目を驚かした。が、話の続きでも、学生を悩ました一筋の黒髪とはいささかも関係はない。勿論揃って男で、変な人で、三人である。
並んだ、その真中《まんなか》のが一番脊が高い。だから偉大なる掌《て》の、親指と、小指を隠して、三本に箔《はく》を塗り、彩色したよ
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