ちゅう》の煙管《きせる》を鉄扇で、ギックリやりますし、その方は蝦蟇口《がまぐち》を口に、忍術の一巻ですって、蹴込《けこみ》へ踞《しゃが》んで、頭までかくした赤毛布《あかげつと》を段々に、仁木弾正《にっきだんじよう》で糶上《せりあが》った処を、交番の巡査《おまわり》さんに怒鳴られたって人なんでございますもの。
 芝居のちっと先方《さき》へいらっしゃると、咽喉《のど》を、そのしめ加減が違って来て、呼吸《いき》にさわるほどですから、払ってもとれないのを、無理にむしり離して、からだを二つ三つ廻りながら、掻きはなすと、空へ消えたようだったそうでございますのに、また、キーと、まるで音でもしますように戻って来て、今度は、その中指へくるくると巻きついたんですが、巻きつくと一所に、きりきりきりきり引きしめて、きりきり、きりきり、その痛さといっては。……
 縫針のさきでさえ、身のうち響きますわ。ただ事でない。解くにも、引切《ひっき》るにも、目に見えるか、見えないほどだし、そこらは暗し、何よりか知った家《とこ》の洋燈《らんぷ》の灯を――それでもって、ええ。……
 さあ、女の髪と分りました、漆のような、黒い、
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