がらな半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]を。……唯今、お手拭《てぬぐい》。」
 茶の室《ま》へ入るうしろから、
「綿屑《わたくず》で結構よ。」
 手拭をさえ惜しんだのは、余程《よっぽど》身に沁《し》みた不気味さに違いない。
 女房は行《ゆ》きがけに、安手な京焼の赤湯呑を引攫《ひっさら》うと、ごぼごぼと、仰向《あおむ》くまで更《あらた》めて嗽《うがい》をしたが、俥で来たのなどは見た事もない、大事なお花客《とくい》である。たしない買水を惜気なく使った。――そうして半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]を畳みながら、行儀よく膝に両の手を重ねて待ったお嬢さんに、顔へ当てるように、膝を伸《のば》しざまに差出した。
「ほんとうに、あなた、蟆子《ぶよ》のたかりましたほどのあともございませんから、御安心遊ばせ。絞りかえて差上げましょう。――さようでございますか、フとしたお心持に、何か触ったのでございましょう。御気分は……」
「はい、お庇《かげ》で。」
「それにつけて、と申すのでもございませんけれど、そういえば、つい四五日前にも、同じ処で、おかしなことがあったんでございますの。ええ、本郷の大
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