よ。」
と水紅色の半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]がまたゆれる。
六
「ちょいちょい、お借り下さる方がございまして、よく出ますから。……唯今《ただいま》見ますけれど。」
女房は片膝立ちに腰を浮かしながら能書《のうがき》をいう。
「……私も読みたい読みたいと存じながら、商売もので、つい慾張《よくば》りまして、ほほほ、お貸し申します方が先へ立ちますけれど。……何ですか、お女郎の心中ものだとか申しますのね。」
「そうですって。……『たそがれ』……というのが、その娼妓《しょうぎ》――遊女《おいらん》の名だって事です。」
と、凜《りん》とした眦《まなじり》の目もきっぱりと言った。簪の白菊も冷いばかり、清く澄んだ頬が白い。心中にも女郎にも驚いた容子《ようす》が見えぬ。もっともこのくらいな事を気にしては、清元も、長唄も、文句だって読めなかろうし、早い話が芝居の軒も潜《くぐ》れまい。が、うっかり小説の筋を洩《も》らして、面と向ったから、女房が却って瞼《まぶた》を染めた。
棚から一冊抜取ると、坐り直して、売りものに花だろう、前垂に据えて、その縮緬《ちりめん》の縞《しま
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