ぶら》の力作とかいう事にもなって、外聞が好《い》い。第一、時節がら一般の気うけが好《よ》かろう。
 鋤と鍬だ、と痩腕で、たちまち息ぜわしく、つい汗になる処から――山はもう雪だというのに、この第一回には、素裸の思案入道殿をさえ煩わした。
 が、再び思うに、むやみと得物《えもの》を振廻しては、馴《な》れない事なり、耕耘《こううん》の武器で、文金に怪我をさせそうで危かしい。
 また飜《ひるがえ》って、お嬢さんの出のあたりは――何をいうのだ――かながきの筆で行《ゆ》く。
「あの……此店《こちら》に……」
 若い女房が顔を見ると、いま小刻みに、長襦袢《ながじゅばん》の色か、下着の褄か、はらはらと散りつつ急いで入った、息づかいが胸に動いて、頬の半※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]《ハンケチ》が少し揺れて、
「辻町、糸七の――『たそがれ』――というのがおありになって。」
 と云った。
「おいで遊ばせ。」
 と若い女房、おくれ馳《ば》せの挨拶をゆっくりして、
「ございますの。……ですけれど、絡《まとま》りました一冊本ではありません……あの、雑誌の中に交って出ていますのでして。」
「ええ、そうです
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