今の若さに気が違ったのじゃあるまいか。狂い方も、蛞蝓《なめくじ》だとペロリと呑みたくなって危いが、蝸牛《でんでんむし》なら仔細《しさい》あるまい、見舞おうと、おのおの鹿爪らしく憂慮気《きづかわしげ》に、中には――時々の事――縁へ這上ったのもあって、まじまじと見て面《つら》を並べている。
 ここに不思議な事は、結びも、留めもしない、朱塗の梅の杯が気狂舞《きちがいまい》に跳ねても飛んでも、辷《すべ》らず、転らず、頭から落ちようとしないので。……ふと心附いて、蟇《ひき》のごとく跼《しゃが》んで、手もて取って引く、女の黒髪が一筋、糸底を巻いて、耳から額へ細《ほっそ》りと、頬にさえ掛《かか》っている。
 猛然として、藍染川、忍川、不忍の池の雪を思出すと、思わず震える指で、毛筋を引けば、手繰れば、扱《しご》けば、するすると伸び、伸びつつ、長く美しく、黒く艶やかに、芬《ぷん》と薫って、手繰り集めた杯の裡《うち》が、光るばかりに漆を刷《は》く。と見ると、毛先がおのずから動いて、杯の縁を刎《は》ね、灰に染めじ、と思う糸七の袖に弛《ゆる》く掛《かか》りながら、すらすらと濡縁へ靡《なび》いたのである。
 こ
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