。糸七も潔く受けました。あなたも、一つ。」
弱い酒を、一時に、頭上《のぼ》った酔に、何をいうやら。しかもひたりと坐直《いなお》って、杯を、目ざすお京の姿に献《さ》そうとして置くのが、畳も縁《へり》も、炉縁も外れて、ずか、と灰の中へ突込もうとして、衝《つ》と手を引いて、ぎょっとしたように四辺《あたり》を視た。
「どうかしている。」
第一に南瓜畠が暗かった。数千の葉が庭ぐるみ皆|戦《そよ》いだ。颶風《はやて》落来《おちく》と目がくらみ、頭髪《ずはつ》が乱れた。
その時、遣場《やりば》に失した杯は思わず頭の真中《まんなか》へ載せたそうである。
一よろけ、ひょろりとして、
「――一段と烏帽子が似合いて候――」
とすっくり立った。
が、これは雪の朝、吉原を落武者の困惑を繰返したものではない。一人の友達の、かつて、深山越《みやまごし》の峠の茶屋で、凄《すさま》じき迅雷《じんらい》猛雨に逢って、遁《に》げも、引きも、ほとんど詮術《せんすべ》のなさに、飲みかけていた硝子盃《コップ》を電力遮断の悲哀なる焦慮で、天窓《あたま》に被《かぶ》ったというのを、改めて思出すともなく、無意識か、はた、意
前へ
次へ
全151ページ中145ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング