から、横から、飛廻って、喚《わめ》くを構わず、
「チンツン、さすがの勇者もたじたじたじ、チチレ、トツツル、ツンツ、ツンツ、こずえ木の葉のさらさらさら、チャン、チャン、チャンチャンラン、チャンラン、魔風とともに光邦が、襟がみつかんで……おほほ、ははは、ちゃっちゃっ、ちゃっ。」
 お京の姿を、框に覗くと、帰る、と見た、おしゃまの、お先走りのお茶っぴいが、木戸|傍《わき》で待った俥の楫棒《かじぼう》を自分で上げて右左へ振りながら駆込んで来たのである。
「わかれに、……その気でいたかも知れない。」
 小杯は朱塗のちょっと受口で、香炉形とも言いそうな、内側に銀の梅の蒔絵《まきえ》が薫る。……薫るのなんぞ何のその、酒の冷《ひや》の気を浴びて、正宗を、壜《びん》の口の切味《きれあじ》や、錵《にえ》も匂も金色《こんじき》に、梅を、朧《おぼろ》に湛《たた》えつつ、ぐいと飲み、ぐいと煽《あお》った――立続けた。
 吻《ほっ》と吹く酒の香を、横|状《ざま》に反《そ》らしたのは、目前《めさき》に歴々《ありあり》とするお京の向合《むきあ》った面影に、心遣いをしたのである。
 杯を持直して、
「別れだといいました
前へ 次へ
全151ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング