背負揚《しょいあげ》を、襟を、島田を、緋《ひ》の張襦袢《ながじゅばん》を、肌を。
「あなたが、あなたが、私を――矢野さんにお媒妁《なこうど》なすった事を聞きました口惜《くや》しさに――女は、何をするか私にも分りません――あなたが世の中で一番お嫌いだという青麟に、結納を済ませたんです。」
「…………」
「辻町さん、よく存じております、知っていたんです。お嫌いなさいますのも、お憎しみも分っています。いますけれど、思う方、慕う方が、その女を余所《よそ》へ媒妁なさると聞いた時の、その女の心は、気が違うよりほかありません。」
と蒼《あお》い顔で、また熟《じっ》と視て、はっと泣きつつ、背けた背を、そのまま、土間へ早や片褄。その褄を圧《おさ》えても、帯をひしと掴《つか》んでも、搦《から》まる緋が炎でも、その中の雪の手首を衝《つ》と取っても、世にげに一度は許されよう、引戻そうと、我を忘れて衝と進んだ。
「危え、危え、ええ危えというに、やい、小阿魔女《こあまっちょ》め。」
「何を小癪《こしゃく》な……チンツン」
と、目をぱっちり、ちょっと、一見得。
黒鴨《くろがも》の俥夫《しゃふ》が、後《うしろ》
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