ち、尾花が白く、冷い泡で、糸七の面《つら》を叩いた。
 大塚の通《とおり》を、舟が漕《こ》ぎ、帆が走る……
 ――や、あの時にそっくりだ。そうだ、しかも八月極暑よ。去んぬる年、一葉女史を、福山町の魔窟に訪ねたと同じ雑誌社の用向きで、中洲の住居《すまい》を音信《おとず》れた事がある。府会議員の邸と聞いたが、場処柄だろう、四枚格子の意気造り。式台で声をかけると、女中も待たず、夕顔のほんのり咲いた、肌をそのままかと思う浴衣が、青白い立姿で、蘆戸《よしど》の蔭へ透いて映ると、すぐ敷居際に――ここに今見ると同じ、支膝《つきひざ》の七分身。紅《くれない》、緋《ひ》でない、水紅《とき》より淡い肉色の縮緬《ちりめん》が、片端とけざまに弛《ゆる》んで胸へふっさりと巻いた、背負上《しょいあげ》の不思議な色気がまだ目に消えない。
 ――原稿を十四五枚、言託《ことづ》けただけで帰ろうと思うのを、「どうぞ、」と黙って入ってしまった。埃《ほこり》だらけの足を、下駄へ引擦《ひっこす》ったなり、中二階のような夏座敷へ。……団扇《うちわ》を出したっけな、お京も持って。さて、何を聞いたか、饒舌《しゃべ》ったか、腰掛窓の机
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