の目で。
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       三十四

 ――この破屋《あばらや》へ、ついぞない、何しに来たろう――
 来やがったろう、と言いたくらいだ。そりの合わない……というのも行き過ぎか、合うにも合わないにも妙齢《としごろ》の女なんぞ影も見せたことのない処へ何しに来たろう。――ああ、そうか。矢野(弦光)の、通俗、首ったけな惚《ほ》れかたを、台町の先生に直ぐ取次いだところ、「好《よ》かろう。」と笑いながらの声が掛《かか》った。先生の一言だ、「好かろう。」は引受けたと同然だから、いずれ嬉しい返事を、と弦光も待つうちに、さあ……梅雨ごろだったか、降っていた。持崩した身は、雨にたたかれた藁《わら》のようになって、どこかの溝へ引掛《ひっかか》り、くさり抜いた、しょびたれで、昼間は見っともなくて長屋|居廻《いまわり》へ顔も出せない。日が暮れて晩《おそ》く帰ると、牛込の料理屋から、俥夫《くるまや》が持って駈《か》けつけたという、先生の手紙があって、「弦光座にあり、待つ」とおっしゃる。……飛びたいにも、駈けたいにも、俥賃なぞあるんじゃない、天保銭の翼も持たぬ。破傘《やれがさ》の尻端折《しり
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