――遠くに居る家主が、かつて適切なる提案をした。曰く、これでは地味が荒れ果てる、無代《ただ》で広い背戸を皆借そうから、胡瓜《きゅうり》なり、茄子《なす》なり、そのかわり、実のない南瓜を刈取って雑草を抜けという。が、肥料なしに、前栽《せんざい》もの、実入《みいり》はない。二十六、七の若いものに、畠《はたけ》いじりは第一無理だし、南瓜の蔓《つる》は焚附《たきつけ》にもならぬ。町に、隠れたる本草家があって、その用途を伝授しても、鎌を買う資本《もとで》がない、従ってかの女、いや、あの野郎の狼藉《ろうぜき》にまかせてあるが、跳梁跋扈《ちょうりょうばっこ》の凄《すさま》じさは、時々切って棄てないと、木戸を攀《よ》じ、縁側へ這いかかる。……こんな荒地は、糸七ごときに、自《おのず》からの禄と見えて、一方は隣地の華族|邸《やしき》の厚い塀だし、一方は大きな植木屋の竹垣だし、この貸屋の背戸として、小さく囲った、まばら垣は、早く朽崩れたから杭もないのに、縁側の片隅に、がたがただけれども、南瓜の蔓が開《あ》け閉《た》てする、その木戸が一つ附いていて、前長屋総体と区切があるから、およそ一百坪に余るのが、おのず
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