《みどう》の棟は日の光紫に、あの氷月の背戸あたり、雪の陽炎《かげろ》う幻の薄絹かけて、紅《くれない》の花が、二つ、三つ。
三十三
辻町糸七は、ぽかんとしていた仕入もの、小机の傍《わき》の、火もない炉辺《ろばた》から、縁を飛んで――跣足《はだし》で逃げた。
逃げた庭――庭などとは贅《ぜい》の言分。放題の荒地で、雑草は、やがて人だけに生茂《おいしげ》った、上へ伸び、下を這《は》って、芥穴《ごみあな》を自然に躍った、怪しき精のごとき南瓜《かぼちゃ》の種が、いつしか一面に生え拡がり、縦横無尽に蔓《はびこ》り乱れて、十三夜が近いというのに、今が黄色な花ざかり。花盛りで一つも実のない、ない実の、そのあって可《い》い実の数ほど、大きな蝦蟇《がま》がのそのそと這いありく。
歌俳諧や絵につかう花野茅原とは品変って、自《おのず》から野武士の殺気が籠《こも》るのであるから、蝶々も近づかない。赤蜻蛉《あかとんぼ》もツイとそれて、尾花の上から視《なが》めている。……その薄《すすき》さえ、垣根の隅に忍ぶばかり、南瓜の勢《いきおい》は逞《たくま》しく、葉の一枚も、烏を組んで伏せそうである。
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