うそうだからね。その節は、席を改めまして、が、富士見楼どころだろう。お伽堂の亭主の策略さ。
 そこへ、愛読の俥《くるま》、一つ飛べば敬拝の馬車に乗せて、今を花形の女義太夫もどきで中洲の中二階から、一雪をおびき出す。」
「三崎町へ、いいえさ、地獄変相の図の中へな、ううう。」
「せき込むなよ……という事も出来るし、亭主がまた髯を捻《ひね》って、「先方御|親父《しんぷ》が、府会議員とごわすれば、直接に打附《ぶつか》って見るも手廻しが早いでごわす。久しく県庁に勤めたで、大なり、小なり議員を扱う手心も承知でごわす。」などという段取になってるそうだ。」
 弦光がこの時、腕を拱《こまぬ》いた。
「少からず煩《うるさ》いな、いつからだね、そんな事のはじまってるのは。」
「初冬から年末……ははは、いやに仲人染みたぜ……そち以来《こち》だそうだ。」
「……だそうじゃ不可《いけな》いよ、冷淡だよ、友達|効《がい》のない。」
「頼まれたのは、今日はじめてじゃないか。」
「それにしても冷淡過ぎるよ。――したたかに中洲へ魔手が伸びているのに。」
「私は中洲が煮て喰われようが、焼いて……不可《いけな》い、人道の問題
前へ 次へ
全151ページ中105ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング