家《うち》の分りにくい処ですぜ。」と、煙草《たばこ》盆は有るものを、口許で燐寸《マッチ》を※[#「火+發」、301−2]《ぱっ》、と目を細うして仰向《あおむ》いて、半分消しておいた煙草をつける。
「余り確かでもないのでの。また家は分るにしてもじゃ。」
と扇子を倒すのと、片膝力なく叩くのと、打傾くのがほとんど一緒で、
「仔細《しさい》なく当方の願が届くかどうかの、さて、」
と沈む……近頃見附けた縁類へ、無心合力にでも行《ゆ》きそうに聞えて、
「何せい、煙硝庫と聞いたばかりでも、清水が湧《わ》くようではない。ちと更《あらた》まっては出たれども、また一つ山を越すのじゃ、御免を被《こうむ》る。一度羽織を脱いで参ろう。ああ、いやお婆さん、それには及ばぬ。」
紋着《もんつき》の羽織を脱いだのを、本畳みに、スーッスーッと襟を伸《の》して、ひらりと焦茶の紐《ひも》を捌《さば》いて、縺《もつ》れたように手を控え、
「扮装《いでたち》ばかり凜々《りり》しいが、足許はやっぱり暗夜《やみ》じゃの。」と裾《すそ》も暗いように、また陰気。
半纏着は腕組して、
「まったく、足許が悪いんですかい、負《おぶ》っ
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