白金之絵図
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)一村雨《ひとむらさめ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山田|守《も》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す
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       一

 片側は空も曇って、今にも一村雨《ひとむらさめ》来そうに見える、日中《ひなか》も薄暗い森続きに、畝《うね》り畝り遥々《はるばる》と黒い柵を繞《めぐ》らした火薬庫の裏通《うらどおり》、寂しい処《ところ》をとぼとぼと一人通る。
「はあ、これなればこそ可《よ》けれ、聞くも可恐《おそろ》しげな煙硝庫《えんしょうぐら》が、カラカラとして燥《はしゃ》いで、日が当っては大事じゃ。」
 と世に疎《うと》そうな独言《ひとりごと》。
 大分日焼けのした顔色で、帽子を被《かむ》らず、手拭《てぬぐい》を畳んで頭に載《の》せ、半開きの白扇を額に翳《かざ》した……一方雑樹交りに干潟《ひがた》のような広々とした畑《はた》
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