と悄《しお》れた肩して膝ばかり、きちんと正しい扇を笏《しゃく》。
 と、思わず釣込まれたようになって、二人とも何かそこへ落ちたように、きょろきょろと土間を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》す。葭簀《よしず》の屋根に二葉三葉。森の影は床几に迫って、雲の白い蒼空《あおぞら》から、木《こ》の実が降って来たようであった。

       三

 半纏着は、急に日が蔭ったような足許《あしもと》から、目を上げて、兀《は》げた老人《としより》の頭《つむり》と、手に持った梨の実の白いのを見較べる。
 婆さんが口を出して、
「御隠居様は御遠方でいらっしゃるのでございますか。」
「下谷《したや》じゃ。」
「そいつあ遠いや、電車でも御大抵じゃねえ。へい、そしてどちらへお越しになるんで。」
「いささかこの辺《あたり》へ用事があっての。当年たった一度、極暑《ごくしょ》の砌《みぎり》参ったばかり、一向に覚束《おぼつか》ない。その節通りがかりに見ました、大《おおき》な学校を当《あて》にいたした処、唯今《ただいま》立寄って見れば門が違うた。」
 腕を伸《のば》して、来た方を指《ゆびさ》すと共に、斉《
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