下された。暗夜《やみよ》に燈火《ともしび》、大智識のお言葉じゃ。
何か、わざと仔細《しさい》らしく、夜中にこれへ出ませいでもの事なれども、朝、昼、晩、日のあるうちは、令嬢《おあねえさま》のお目に留《とま》って、易からぬお心遣い、お見舞を受けまする。かつは親御様の前、別して御尊父に忍んで遊ばす姫御前《ひめごぜん》の御身《おんみ》に対し、別事あってならぬと存じ、御遠慮を申すによって、わざと夜陰を選んで参りますものを、何としてこの暗いに。これでは老人、身の置きどころを覚えませぬ。第一|唯今《ただいま》も申す親御様に、」
「いえ、母は、よく初手からの事を存じております。煩っておりませんと、もっと以前にどうにもしたいのでございますッて。ほんとうにお爺様、貴老《あなた》の御心労をお察し申して、母は蔭ながら泣いております。」
「ああ、勿体至極《もったいしごく》もござらん。その儀もかねてうけたまわり、老人心魂に徹しております。」
「私も一所に泣くんですわ。ほんとうに私の身体《からだ》で出来ます事でしたら、どうにもしてお上げ申したいんでございますよ。それこそね、あの、貴老《あなた》が遊ばす、お狂言の罠
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