《は》く深い裾も――風情は萩の花で、鳥居もとに彼方《あなた》、此方《こなた》、露ながら明《あかる》く映って、友染《ゆうぜん》を捌《さば》くのが、内端《うちわ》な中に媚《なまめ》かしい。
狐の顔が明先《あかりさき》にスッと来て近《ちかづ》くと、その背後《うしろ》へ、真黒《まっくろ》な格子が出て、下の石段に踞《うずくま》った法然《ほうねん》あたまは与五郎である。
老人は、石の壇に、用意の毛布《けっと》を引束《ひったば》ねて敷いて、寂寞《ひっそり》として腰を据えつつ、両手を膝に端坐した。
「お爺様。」
と云う、提灯の柄が賽銭箱《さいせんばこ》について、件《くだん》の青狐の像と、しなった背中合せにお町は老人の右へ行《ゆ》く。
「やあ、」
もっての外元気の可《い》い声を掛けたが、それまで目を瞑《つぶ》っていたらしい、夢から覚めた面色《おももち》で、
「またしてもお見舞……令嬢《おあねえさま》、早や、それでは痛入《いたみい》る。――老人にお教へ下さると云うではなけれど、絵図面が事の起因《おこり》ゆえ、土地に縁があろうと思えば、もしや、この明神に念願を掛けたらば――と貴女《あなた》がお心付け
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