接骨医《ほねつぎ》へ早く……」
「お怪我は?」
 与五郎野雪老人は、品ある顔をけろりとして、
「やあ、小児《こども》たち、笑わぬか、笑え、あはは、と笑え。爺《じい》が釣狐の舞台もの、ここへ運べば楽なものじゃ――我は化けたと思えども、人はいかに見るやらん。」
 と半眼に、従容《しょうよう》として口誦《こうじゅ》して、
「あれ、あの意気が大事じゃよ。」
 と、頭《こうべ》を垂れて、ハッと云って、俯向《うつむ》く背《せな》を、人目も恥じず、衝《つ》と抱いて、手巾《ハンカチ》も取りあえず、袖にはらはらと落涙したのは、世にも端麗《あでやか》なお町である。
「お手を取ります、お爺様《じいさま》、さ、私と一所に。」

       十四

 円《まる》に桔梗《ききょう》の紋を染めた、厳《いか》めしい馬乗提灯《うまのりぢょうちん》が、暗夜《くらやみ》にほのかに浮くと、これを捧げた手は、灯よりも白く、黒髪が艶々《つやつや》と映って、ほんのりと明《あかる》い顔は、お町である。
 と、眉に翳《かざ》すようにして、雪の頸《うなじ》を、やや打傾けて優しく見込む。提灯の前にすくすくと並んだのは、順に数の重なった朱
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