、袖《そで》の長いのが、後《あと》について、七八ツのが森の下へ、兎《うさぎ》と色鳥ひらりと入った。葭簀|越《ごし》に、老人はこれを透かして、
「ああ、その森の中は通抜けが出来ますかの。」
「これは、余所《よそ》のお邸《やしき》様の持地《もちじ》でございまして、はい、いいえ、小児衆《こどもしゅ》は木の実を拾いに入りますのでございますよ。」
「出口に迷いはしませんかの、見受けた処、なかなかどうも、奥が深い。」
「もう口許《くちもと》だけでございます。で、ございますから、榎《えのき》の実に団栗《どんぐり》ぐらい拾いますので、ずっと中へ入りますれば、栗も椎《しい》もございますが、よくいたしたもので、そこまでは、可恐《こわ》がって、お幼《ちいさ》いのは、おいたが出来ないのでございます。」
「ははあいかにもの。」
と、飲んだ茶と一緒に、したたか感心して、
「これぞ、自然《おのずから》なる要害、樹の根の乱杭《らんぐい》、枝葉《えだは》の逆茂木《さかもぎ》とある……広大な空地じゃな。」
「隠居さん、一つお買いなすっちゃどうです。」
と唐突《だしぬけ》に云った。土方|体《てい》の半纏着《はんてんぎ》が
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