つ》が、よぼよぼの爺《じじい》でね。」
「おや、へい。」
「色情狂《いろきちがい》で、おまけに狐憑《きつねつき》と来ていら。毎日のように、差配の家《うち》の前をうろついて附纏《つきまと》うんだ。昨日もね、門口の段に腰を掛けている処を、大《おおき》な旦那が襟首を持って引摺《ひきずり》出した。お嬢さんが縋《すが》りついて留めてたがね。へッ被成《なさる》もんだ、あの爺を庇《かば》う位なら、俺《おいら》の頬辺《ほっぺた》ぐらい指で突《つつ》いてくれるが可《い》い、と其奴が癪《しゃく》に障ったからよ。自転車を下りて見ていたんだが、爺の背中へ、足蹴《あしげ》に砂を打《ぶ》っかけて遁《に》げて来たんだ。
 それ、そりゃ昨日の事だがね。串戯《じょうだん》じゃねえや。お嬢さんを張りに来るのに弁当を持ってやあがる、握飯の。」
「成程、変だ。」……歯入屋が言った。
「そうよ、其奴を、旦《だん》が踏潰《ふみつぶ》して怒ってると、そら、俺《おいら》を追掛《おっか》けやがる斑犬《ぶちいぬ》が、ぱくぱく食《くい》やがった、おかしかったい、それが昨日さ。」
「分ったよ、昨日は。」
「その前《めえ》もね、毎日だ。どこか
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