おあねえさま》、さて、ここじゃ。
橋がかりを、四五|間《けん》がほど前へ立って、コトコトと行《ゆ》くのが、以前の和尚。痩《や》せに痩せた干瓢《かんぴょう》、ひょろりとある、脊丈のまた高いのが、かの墨染の法衣《ころも》の裳《もすそ》を長く、しょびしょびとうしろに曳《ひ》いて、前かがみの、すぼけた肩、長頭巾《もっそう》を重げに、まるで影法師のように、ふわりふわりと見えます。」
と云うとふとそこへ、語るものが口から吐いた、鉄拐《てっかい》のごとき魍魎《もうりょう》が土塀に映った、……それは老人の影であった。
「や、これはそも、老人《わし》の魂《たま》の抜出した形かと思うたです、――誰も居ませぬ、中有《ちゅうう》の橋でな。
しかる処、前途《ゆくて》の段をば、ぼくぼくと靴穿《くつばき》で上《あが》って来た駅夫どのが一人あります。それが、この方へ向って、その和尚と摺違《すれちご》うた時じゃが、の。」
与五郎は呼吸《いき》を吐《つ》いて、
「和尚が長い頭巾の頭《ず》を、木菟《みみずく》むくりと擡《もたげ》ると、片足を膝頭《ひざがしら》へ巻いて上げ、一本の脛《すね》をつッかえ棒に、黒い尻をはっ
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