と振ると、組違えに、トンと廻って、両の拳《こぶし》を、はったりと杖に支《つ》いて、
(横須賀行はこちらかや。)
追掛《おっか》けに、また一遍、片足を膝頭へ巻いて上げ、一本の脛を突支棒《つッかえぼう》に、黒い尻をはっと揺《ゆす》ると、組違えにトンと廻って、
(横須賀行はこちらかや。)
と、早や此方《こなた》ざまに参った駅夫どのに、くるりと肩ぐるみに振向いた。二度見ました。痩《やせ》和尚の黄色がかった青い長面《ながづら》。で、てらてらと仇光《あだびか》る……姿こそ枯れたれ、石も点頭《うなず》くばかり、行《おこない》澄《すま》いた和尚と見えて、童顔、鶴齢《かくれい》と世に申す、七十にも余ったに、七八歳と思う、軽いキャキャとした小児《こども》の声。
で、またとぼとぼと杖に縋《すが》って、向う下《さが》りに、この姿が、階子段に隠れましたを、熟《じっ》と視《み》ると、老人思わず知らず、べたりと坐った。
あれよあれよ、古狐が、坊主に化けた白蔵主《はくぞうす》。したり、あの凄《すご》さ。寂《さびし》さ。我は化けんと思えども、人はいかに見るやらん。尻尾を案じた後姿、振返り、見返る処の、科《こなし
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