いろ》の濁った天鵝絨《びろうど》仕立、ずっと奥深い長い部屋で、何とやら陰気での、人も沢山《たんと》は見えませいで、この方、乗りました砌《みぎり》には、早や新聞を顔に乗せて、長々と寝た人も見えました。
入口の片隅に、フト燈《あかり》の暗い影に、背屈《せくぐ》まった和尚がござる! 鼠色の長頭巾《もっそう》、ト二尺ばかり頭《ず》を長う、肩にすんなりと垂《たれ》を捌《さば》いて、墨染の法衣《ころも》の袖を胸で捲《ま》いて、寂寞《じゃくまく》として踞《うずくま》った姿を見ました……
何心もありませぬ。老人、その前を通って、ずっとの片端、和尚どのと同じ側の向うの隅で、腰を落しつけて、何か、のかぬ中の老和尚、死なば後前《あとさき》、冥土《めいど》の路の松並木では、遠い処に、影も、顔も見合おうず、と振向いて見まするとの……」
娘は浅葱《あさぎ》の清らかな襟を合す。
父爺《おやじ》の家主は、棄てた楊枝《ようじ》を惜しそうに、チョッと歯ぜせりをしながら、あとを探して、時々|唾《つば》吐く。
十一
「早や遠い彼方《あなた》に、右の和尚どの、形|朦朧《もうろう》として、灰をば束《つか
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