の猟人《かりゅうど》をば附合うてくれられた。それより中絶をしていますに因って、手馴《てな》れねば覚束《おぼつか》ない、……この与五郎が、さて覚束のうては、余はいずれも若い人《じん》、まだ小児《こども》でござる。
折からにつけ忘れませぬは、亡き師匠、かつは昔勤めました舞台の可懐《なつかし》さに、あの日、その邸の用も首尾すまいて、芝の公園に参って、もみじ山のあたりを俳徊《はいかい》いたし、何とも涙に暮れました。帰りがけに、大門前の蕎麦屋《そばや》で一酌傾け、思いの外の酔心《よいごころ》に、フト思出しましたは、老人一|人《にん》の姪《めい》がござる。
これが海軍の軍人に縁付いて、近頃相州の逗子《ずし》に居《お》ります。至って心の優しい婦人で、鮮《あたら》しい刺身を進じょう、海の月を見に来い、と音信《おとずれ》のたびに云うてくれます。この時と、一段思付いて、遠くもござらぬ、新橋駅から乗りました。が、夏の夜《よ》は短うて、最早や十時。この汽車は大船が乗換えでありましての、もっとも両三度は存じております。鎌倉、横須賀は、勤めにも参った事です――
時に、乗込みましたのが、二等と云う縹色《はなだ
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