た、あれなる出窓じゃ――
何と、その出窓の下に……令嬢《おあねえさま》、お机などござって、傍《かたえ》の本箱、お手文庫の中などより、お持出でと存じられます。寺、社《やしろ》に丹《に》を塗り、番地に数の字を記《か》いた、これが白金《しろかね》の地図でと、おおせで、老人の前でお手に取って展《ひら》いて下され、尋ねます家《うち》を、あれか、これかと、いやこの目の疎《うと》いを思遣《おもいや》って、御自分に御精魂な、須弥磐石《しゅみばんじゃく》のたとえに申す、芥子粒《けしつぶ》ほどな黒い字を、爪紅《つまべに》の先にお拾い下され、その清らかな目にお読みなさって……その……解りました時の嬉しさ。
御心の優しさ、御教えの尊さ、お智慧《ちえ》の見事さ、お姿の※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《ろう》たい事。
二度目には雷神坂を、しゃ、雲に乗って飛ぶように、車の上から、見晴しの景色を視《なが》めながら、口の裡《うち》に小唄謡うて、高砂《たかさご》で下りました、ははっ。」
と、踞《しゃが》むと、扇子を前半《まえはん》に帯にさして、両手を膝へ、土下座もしたそうに腰を折って、
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