、つかん事を伺いまするが、さて、貴方《あなた》に、お一方、お娘御がおいでなさりはせまいか。」
と、思込んだ状《さま》して言った。
「娘……ああ、女のかね。」
唐突《だしぬけ》に他《よそ》の家《うち》の秘蔵を聞くは、此奴《こいつ》怪《け》しからずの口吻《くちぶり》、半ば嘲《あざ》けって、はぐらかす。
いよいよ真顔で、
「されば、おあねえ様であらっしゃります。」
「姉だか、妹だか、一人居ます。一人娘だよ。いやさ、大事な娘だよ。」
「ははっ、御道理《ごもっとも》千万な儀で。」
「それが、どうしたと云うんですえ。」と、余り老人の慇懃さに、膨れた頬を手で圧《おさ》えた。
「私《てまえ》、取って六十七歳、ええ、この年故に、この年なれば御免を蒙《こうむ》る。が、それにしても汗が出ます。」
と額を拭《ぬぐ》って、咳《しわぶき》をした……
「何とぞいたして御大人、貴方の思召《おぼしめし》をもちまして、お娘御、おあねえ様に、でござる、ちょっと、御意を得ますわけには相成りませぬか。」
「ふん、娘にかい。」
「何とも。」
「変だねえ、娘に用があるなら俺に言え、と云うのだが、それは別だ。いやあえて怪しい
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