うか》んでは兎も波を走るか、……いやいや、面白い事はない。」
で、羽織を出して着たのであった。
頸窪《ぼんのくぼ》に胡摩塩斑《ごましおまだら》で、赤|禿《は》げに額の抜けた、面《つら》に、てらてらと沢《つや》があって、でっぷりと肥った、が、小鼻の皺《しわ》のだらりと深い。引捻《ひんねじ》れた唇の、五十余りの大柄な漢《おとこ》が、酒焼《さけやけ》の胸を露出《あらわ》に、べろりと兵児帯《へこおび》。琉球|擬《まが》いの羽織を被《き》たが、引《ひっ》かけざまに出て来たか、羽織のその襟が折れず、肩をだらしなく両方を懐手《ふところで》で、ぎくり、と曲角から睨《にら》んで出た、(これこれ、いやさ、これ。)が、これなのである。
「何ぞ、老人に用の儀でも。」
と慇懃《いんぎん》に会釈する。
赭顔《あからがお》は、でっぷりとした頬を張って、
「いやさ、用とはこっちから云う事じゃろうが、うう御老人。」と重く云う。
「貴方《あなた》は?」
「いやさ、名を聞くなら其許《そこもと》からと云う処だが、何も面倒だ。俺は小室《こむろ》と云う、むむ小室と云う、この辺《あたり》の家主なり、差配なりだ。それがどうし
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