》れば、花弁《はなびら》から、はっと分れて、向うへ飛んだは蝴蝶《ちょうちょう》のような白い顔、襟の浅葱《あさぎ》の洩《も》れたのも、空が映って美しい。
老人転倒せまい事か。――やあ、緑青色の夥間《なかま》に恥《は》じよ、染殿《そめどの》の御后《おんきさい》を垣間《かいま》見た、天狗《てんぐ》が通力を失って、羽の折れた鵄《とび》となって都大路にふたふたと羽搏《はう》ったごとく……慌《あわただ》しい遁《に》げ方して、通用門から、どたりと廻る。とやっとそこで、吻《ほっ》と息。
ちょうどその時、通用門にひったりと附着《くッつ》いて、後背《うしろ》むきに立った男が二人居た。一人は、小倉《こくら》の袴《はかま》、絣《かすり》の衣服《きもの》、羽織を着ず。一人は霜降《しもふり》の背広を着たのが、ふり向いて同じように、じろりと此方《こなた》を見たばかり。道端《みちばた》の事、とあえて意《こころ》にも留めない様子で、同じように爪《つま》さきを刻んでいると、空の鵄が暗号《あいず》でもしたらしい、一枚びらき馬蹄形《ばていがた》の重い扉《と》が、長閑《のどか》な小春に、ズンと響くと、がらがらぎいと鎖で開《
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