抜けて、隣邸の冠木門《かぶきもん》を覗《のぞ》く梅ヶ枝の影に縋《すが》って留《とま》ると、件《くだん》の出窓に、鼻の下を伸《のば》して立ったが、眉をくしゃくしゃと目を瞑《ねむ》って、首を振って、とぼとぼと引返して、さあらぬ垣越。百日紅《さるすべり》の燃残《もえのこ》りを、真向《まっこう》に仰いで、日影を吸うと、出損なった嚔《くさめ》をウッと吸って、扇子の隙なく袖を圧《おさ》える。
そのまま、立直って、徐々《そろそろ》と、も一度戻って、五段ばかり石を築《つ》いた小高い格子戸の前を行過ぎた。が溝《どぶ》はなしに柵を一小間《ひとこま》、ここに南天の実が赤く、根にさふらん[#「さふらん」に傍点]の花が芬《ぷん》と薫るのと並んで、その出窓があって、窓硝子《まどがらす》の上へ真白《まっしろ》に塗った鉄《かね》の格子、まだ色づかない、蔦《つた》の葉が桟に縋って廂《ひさし》に這《は》う。
思わず、そこへ、日向にのぼせた赤い顔の皺面《しわづら》で、鼻筋の通ったのを、まともに、伸《のし》かかって、ハタと着《つ》ける、と、颯《さっ》と映るは真紅の肱附《ひじつき》。牡丹《ぼたん》たちまち驚いて飜《ひるがえ
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