た島、目近《まぢか》き雷神の一本の大栂《おおとが》の、旗のごとく、剣《つるぎ》のごとく聳《そび》えたのは、巨船天を摩す柱に似て、屋根の浪の風なきに、泡の沫《しぶき》か、白い小菊が、ちらちらと日に輝く。白金《しろがね》の草は深けれども、君が住居《すまい》と思えばよしや、玉の台《うてな》は富士である。
六
「相違《ちがい》ない、これじゃ。」
あの怪しげな烏瓜を、坂の上の藪《やぶ》から提灯、逆上《のぼ》せるほどな日向《ひなた》に突出す、痩《や》せた頬の片靨《かたえくぼ》は気味が悪い。
そこで、坂を下りるのかと思うと、違った。……老人は、すぐに身体《からだ》ごと、ぐるりと下駄を返して、元の塀についてまた戻る……さては先日、極暑の折を上ったというこの坂で、心当りを確《たしか》めたものであろう。とすると、狙《ねらい》をつけつつ、こそこそと退《の》いてござったあの町中《まちなか》の出窓などが、老人の目的《めあて》ではないか。
裏《うち》に、眉のあとの美しい、色白なのが居ようも知れぬ。
それ、うそうそとまた参った……一度|屈腰《かがみごし》になって、静《そっ》と火薬庫の方へ通
前へ
次へ
全62ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング