しさ》った、今のその……たのもしい老人の声の力に圧《お》されたのである。
「さて、鳴くか。」
「へい?……」
「やはりその、」
と張肱《はりひじ》になった呼吸《いき》を胸に、下腹《したはら》を、ずん、と据えると、
「カーン! というて?」
どさりと樹から下りた音。瓜がぶらり、赤く宙に動いて、カラカラと森に響く。
婆さんの顔を見よ。
半纏着が飛んで帰って、同じくきょとつく目を合せた。
「驚いた……烏が一斉《いっとき》に飛びやあがった。何だい、今の、あの声は。……烏瓜を※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《もぎ》っただけで下りりゃ可《い》いのに、何だかこう、樹の枝に、茸《きのこ》があったもんだから。」
五
「これ、これ、いやさ、これ。」
「はあ、お呼びなされたは私《てまえ》の事で。」
と、羽織の紐を、両手で結びながら答えたのは先刻《さっき》の老人。一方|青煉瓦《あおれんが》の、それは女学校。片側波を打った[#「打った」は底本では「打つた」]亜鉛塀《トタンべい》に、ボヘミヤ人の数珠のごとく、烏瓜を引掛《ひっか》けた、件《くだん》の繻子張《しゅすばり》を凭
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