、落ちまい……」と伸上る。
「大丈夫でございますよ。電信柱の突尖《とっさき》へ腰を掛ける人でございますからね。」
「むむ、侠勇《いさみ》じゃな……杖とも柱とも思うぞ、老人、その狐の提灯で道を照《てら》す……」
「可厭《いや》ではございませんかね、この真昼間《まっぴるま》。」
「そこが縁起じゃ、禁厭《まじない》とも言うのじゃよ、金烏玉兎《きんうぎょくと》と聞くは――この赫々《あかあか》とした日輪の中には三脚の鴉《からす》が棲《す》むと言うげな、日中《ひなか》の道を照す、老人が、暗い心の補助《おぎない》に、烏瓜の灯《ともしび》は天の与えと心得る。難有《ありがた》い。」と掌《たなそこ》を額に翳《かざ》す。
婆さんは希有《けう》な顔して、
「でも、狐火《きつねび》か何ぞのようで、薄気味が悪いようでございますね。」
「成程、……狐火、……それは耳より。ふん……かほどの森じゃ、狐も居《お》ろうかの。」
「ええ、で、ございますのでね、……居りますよ。」
「見たか。」
「前《ぜん》には、それは見たこともございますとも。」
老人これを聞くと腰を入れて、
「ああ、たのもしい。」
「ええ……」
と退《
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