つては、又空に手を伸ばす。――
紫玉はズツと寄つた。稚児は最《も》う涼傘《ひがさ》の陰に入つたのである。
「一寸《ちょっと》……何をして居るの。」
「水が欲しいの。」
と、あどけなく言つた。
あゝ、其《それ》がため足場を取つては、取替《とりか》へては、手を伸ばす、が爪立《つまだ》つても、青い巾《きれ》を巻いた、其の振分髪《ふりわけがみ》、まろが丈《たけ》は……筒井筒《つついづつ》其の半《なかば》にも届くまい。
三
其の御手洗《みたらし》の高い縁《ふち》に乗つて居る柄杓《ひしゃく》を、取りたい、と又|稚児《ちご》が然《そ》う言つた。
紫玉は思はず微笑《ほほえ》んで、
「あら、恁《こ》うすれば仔細《わけ》はないよ。」
と、半身《はんしん》を斜めにして、溢《あふ》れかゝる水の一筋《ひとすじ》を、玉《たま》の雫《しずく》に、颯《さっ》と散らして、赤く燃ゆるやうな唇に請《う》けた。ちやうど渇いても居たし、水の潔《きよ》い事を見たのは言ふまでもない。
「ねえ、お前。」
稚児が仰いで、熟《じっ》と紫玉を視《み》て、
「手を浄《きよ》める水だもの。」
直接《じか》に
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