いた、つくりものの自の神馬《しんめ》が寂寞《せきばく》として一頭《ひとつ》立つ。横に公園へ上《あが》る坂は、見透《みとお》しに成つて居たから、涼傘《ひがさ》のまゝスツと鳥居から抜けると、紫玉の姿は色のまゝ鳥居の柱に映つて通る。……其処《そこ》に屋根囲《やねがこい》した、大《おおい》なる石の御手洗《みたらし》があつて、青き竜頭《りゅうず》から湛《たた》へた水は、且《か》つすら/\と玉を乱して、颯《さっ》と簾《すだれ》に噴溢《ふきあふ》れる。其手水鉢《そのちょうずばち》の周囲《まわり》に、唯《ただ》一人……其の稚児《ちご》が居たのであつた。
 が、炎天、人影も絶えた折から、父母《ちちはは》の昼寝の夢を抜出《ぬけだ》した、神官の児《こ》であらうと紫玉は視《み》た。ちら/\廻りつゝ、廻りつゝ、彼方此方《あちこち》する。……
 唯《と》、御手洗は高く、稚児は小さいので、下を伝うてまはりを廻るのが、宛然《さながら》、石に刻んだ形が、噴溢《ふきあふ》れる水の影に誘はれて、すら/\と動くやうな。……と視るうちに、稚児は伸上《のびあが》り、伸上《のびあが》つては、いたいけな手を空に、すらりと動いて、伸上
前へ 次へ
全63ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング