誰《たれ》憚《はばか》るともなく自然《おのず》から俯目《ふしめ》に俯向《うつむ》く。謙譲の褄《つま》はづれは、倨傲《きょごう》の襟《えり》より品《ひん》を備へて、尋常《じんじょう》な姿容《すがたかたち》は調《ととの》つて、焼地《やけち》に焦《い》りつく影も、水で描いたやうに涼しくも清爽《さわやか》であつた。
僅少《わずか》に畳《たたみ》の縁《へり》ばかりの、日影を選んで辿《たど》るのも、人は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて、鯨《くじら》に乗つて人魚が通ると見たであらう。……素足《すあし》の白いのが、すら/\と黒繻子《くろじゅす》の上を辷《すべ》れば、溝《どぶ》の流《ながれ》も清水《しみず》の音信《おとずれ》。
で、真先《まっさき》に志《こころざ》したのは、城の櫓《やぐら》と境を接した、三《み》つ二《ふた》つ、全国に指を屈すると云ふ、景勝《けいしょう》の公園であつた。
二
公園の入口に、樹林を背戸《せど》に、蓮池《はすいけ》を庭に、柳、藤《ふじ》、桜、山吹《やまぶき》など、飛々《とびとび》に名を呼ばれた茶店《ちゃみせ》がある。
紫玉が
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