上だけれど、紋の着いた薄羽織《うすばおり》を引《ひっ》かけて居たが、扨《さ》て、「改めて御祝儀を申述べます。目の下二|尺《しゃく》三|貫目《がんめ》は掛《かか》りませう。」とて、……及《およ》び腰《ごし》に覗《のぞ》いて魂消《たまげ》て居る若衆《わかいしゅ》に目配《めくば》せで頷《うなずか》せて、「恁《か》やうな大魚《たいぎょ》、然《しかし》も出世魚《しゅっせうお》と申す鯉魚《りぎょ》の、お船へ飛込《とびこ》みましたと言ふは、類希《たぐいまれ》な不思議な祥瑞《しょうずい》。おめでたう存じまする、皆、太夫様の御人徳《ごじんとく》。続きましては、手前|預《あずか》りまする池なり、所持の屋形船《やかたぶね》。烏滸《おこ》がましうござりますが、従つて手前どもも、太夫様の福分《ふくぶん》、徳分《とくぶん》、未曾有《みぞう》の御人気《ごにんき》の、はや幾分かおこぼれを頂戴《ちょうだい》いたしたも同じ儀で、恁《か》やうな心嬉しい事はござりませぬ。尚《な》ほ恁《か》くの通りの旱魃《かんばつ》、市内は素《もと》より近郷《きんごう》隣国《りんごく》、唯《ただ》炎の中に悶《もだ》えまする時、希有《けう》の大
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